共有土地における建物建築工事の差止請求と原状回復請求
共有物を一部共有者が単独で占有している場合、あるいは共有者の一部の者から共有物を占領使用することを承認された第三者に対して、その余の共有者は、当然には、共有物の明渡しを請求することができないとされています(最高裁昭和41年5月19日判決・民集20巻5号947頁、最高裁判昭57年6月17日判決・判例タイムズ479号90頁、最高裁昭和63年5月20日判決・判例タイムズ668号128頁)。
それでは、共有土地上に共有者の一部の者が建物建築工事を開始した場合、その余の共有者がどのような対処をすることができるのでしょうか?
このような場合、最高裁平成10年3月24日判決・判例タイムズ974号92頁は、共有者の1人が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加えた場合には、他の共有者は、特段の事情がない限り、変更により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることができるとしています。
最高裁平成10年3月24日判決・判例タイムズ974号92頁
事案の概要
- 亡Aは、第一審判決添付物件目録記載の各不動産を所有していた。
- Aは、平成2年10月、死亡し、同人の妻並びに4人の子がこれを相続したが、Aの遺産についての分割協議は未了である。
- 本件土地は、Aの死後畑として利用されていたが、被上告人が、本件土地上に家屋を建築する目的で、平成5年4月ころから同年7月ころまでの間、本件土地に土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行った結果、その地平面が北側公道の路面より25cm低い状態にあったものが右路面より高い状態となり、非農地化した。
- 上告人の本件請求は、本件土地の共有持分権に基づく妨害排除として、本件土地につき、北側に隣接する公道の路面より25cm低い地平面となるよう本件土地上の土砂を撤去する方法により、原状回復する工事をすることを求めるものである。
- 原審は、被上告人は、本件土地につき相続による共有持分(8分の1)を有しており、共有者として本件土地を使用する権原があるから、上告人が被上告人に対して共有持分権に基づく妨害排除請求権を行使し得るいわれはないとして、上告人の本件請求を棄却すべきものと判断した。
最高裁
共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく、共有を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできると解するのが相当である。けだし、共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(民法249条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(民法251条)からである。もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比等に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が共有持分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その請求が許されない場合もあることはいうまでもない。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件土地は、遺産分割前の遺産共有の状態にあり、畑として利用されていたが、被上告人は、本件土地に土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行って、これを非農地化したというのであるから、被上告人の右行為は、共有物たる本件土地に変更を加えるものであって、他の共有者の同意を得ない限り、これをすることができないというべきところ、本件において、被上告人が右工事を行うにつき他の共有者の同意を得たことの主張立証はない。そうすると、上告人は、本件土地の共有持分権に基づき、被上告人に対し、右工事の差止めを求めることができるほか、右工事の終了後であっても、本件土地に搬入された土砂の範囲の特定及びその撤去が可能であるときには、上告人の本件請求が権利濫用に当たるなどの特段の事情がない限り、原則として、本件土地に搬入された土砂の撤去を求めることができるというべきである。