共有不動産の賃料差押に関する東京地判平成27・9・30

 共有建物の賃料差押に関し、取立金の充当につき判断した東京地裁平成27930日判決をご紹介します。

事案の概要

Yは、Xに対し115万円及び遅延損害金等、Aに対し1314万円及び遅延損害金等の債権を有している(判決あり)。

XY及びAは本件建物を共有している。

X  35870万分の216311651

Y  35870万分の83372662

A  35870万分の59015687

YA2人が貸主として本件建物の賃貸借契約を締結し、賃料については第三者名義の預金口座に振り込ませていた。

Yは賃借人が支払うべき賃料を①の判決に基づいて差押えた。

〔請求債権〕

X分 1162837

A分 14240808

〔差押債権〕

債務者が各第三債務者に対して有する本件建物の賃料債権にして、本命令送達日以降支払期が到来する分から頭書金額に満つるまで。なお、他に賃貸人がいる場合には、賃貸人各自の賃料債権は、相互に不可分債権の関係にあるとして差し押さえるものである。

Yは差押命令に基づき第三債務者である賃借人から合計633万円を取り立てた。

Xの請求

 Xは取立金を本件建物のXY及びAの各持分割合に応じて分割し、Xの持分割合に相当する取立金をXYに対して負う債務に充当すると、Xの債務は消滅するとして、次の請求をした。

①上記判決に基づく強制執行の不許

YXの持分割合に相当する取立金からXの債務額を控除した額を超える部分を法律上の原因なく利得しているとして不当利得の返還

判決

 判決は次のように判示してXの請求を全て棄却しました。

「Xは、共有に係る本件建物の賃料債権は可分債権であり、X及びAは、それぞれ、持分割合に応じて分割された賃料債権を取得すると主張する。

 しかし、本件賃貸借契約は、共有者であるX、Y及びAのうち、X及びAが各賃借人との間で締結したものであるから、賃料債権は、これが可分債権となるか不可分債権となるかは措いたとしても、X及びAに帰属することは明らかである。この点、最高裁平成17年判決(注:最高裁平成1798日判決)は、相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権について、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する旨判示したものであるが、これは、相続開始前に締結された賃貸借契約について、相続開始から遺産分割までの間という賃貸人(共有者)間に明示的な合意がない場合の賃料債権の帰属について判示したものであって、本件のように、共有者の一部が自ら賃貸借契約を締結したような場合には、直ちに同判例の射程が及ぶということはできない。また、共有物から生じる法定果実(賃料)の帰属について共有者間に合意がない場合には、各共有者は、共有持分割合に応じて分割された賃料債権を取得する(民法427条参照)としても、そのことから直ちに、本件においても、共有者であるX、Y及びAが本件賃貸借契約の賃料について、持分割合に応じた分割債権を取得することにはならないというべきである。そして、本件賃貸借契約においては、各賃借人は、賃料を一つの預金口座に全額を振り込んで支払うものとされ、X及びAに対して、その共有持分割合に従って分けて弁済すべきなどの定めがされていないことに照らすと、本件賃貸借契約に係る賃料債権については、これを不可分債権とする合意(少なくとも黙示の合意)があると認めるのが相当である。

 そこで、更に進んで検討するに、Yは、X及びAに対する債務名義を有し、これに基づき本件差押命令の発付を受けて、X及びAが有する賃料債権を不可分債権として差し押さえ、第三債務者から取立てを行っており、Yは、本件取立金全額を適法に保持する権原を有している。そして、債権者が取立金を複数の債務者との関係で、どのように分配して債権に充当するかは、債権者が自由に決し得る事柄であるといえる。したがって、本件においても、Yは、Xとの関係では、X及びAの本件建物の共有持分割合に拘束されることなく、本件取立金の全額を、YのAに対する債権に充当することができるというべきであり、この点に関するXの主張は採用することができない(なお、XとAとの間の内部的な合意の内容によっては、XのAに対する不当利得返還請求権が成立し得ることは別論である。)。

 以上によれば、Xに対する請求債権が既に回収済みであるとは認められず、また、YがXの損失により不当に利得しているとも認めることはできない。」

コメント

 上記判決の解説では、「誰が賃貸人となっているのか、当事者間に賃料支払に関する特約があるのか等が必ずしも明らかでない段階で行う執行の申立てにおいては、賃料債権を可分債権として取り扱うものとすると、申立人は、とりあえず共有者全員を賃貸人とした上、賃貸人の共有持分割合の比率または賃貸人の人数割りで差押債権を分割して申し立てた上、第三債務者に対する陳述催告の結果を踏まえ、申立ての一部取下げと追加申立てを余儀なくされることになるなどの理由から、東京地裁の民事執行センターにおいては、共有者全員が賃貸人であり、賃料債権は不可分債権であるとの前提で申し立てることを許容している(東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著『民事執行の実務[第3版]債権執行編(上)』210頁(金融財政事情研究会、2012年))。そうすると、執行手続との平仄を取るという見地からは、本件においても、共有物に係る賃料債権は不可分債権であると考えるということになる。」とされています。

 共有に係る物件の賃料債権の差押については上記のような争いがあることに留意する必要があります。

(弁護士 井上元)

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