カラオケ店舗の駐車場賃貸借更新拒絶に関する福岡高判平成27.8.27
建物賃貸借および建物所有目的での土地賃貸借については借地借家法により借主が強く保護されていますが、建物所有目的以外の土地賃貸借についてはこのような保護がなく、契約期間が満了すれば契約は終了するのが原則です。
しかし、これらが一体として利用されている場合、一部のみにつき契約が終了すると、他の部分だけでは契約の目的を達することができない場合もあります。
このような事案において、権利濫用の法理により契約は終了しないとした裁判例がありますのでご紹介します。
福岡高裁平成27年8月27日判決
事案の概要
① AらはYに対し、平成21年、本件建物をカラオケ営業のため賃貸し、同時に、本件土地をカラオケ建物用の駐車場として賃貸した。
② AらはXに対し、平成25年、本件建物および本件土地を売却し、Xは賃貸人の地位を承継した。
③ AらはYに対し、同年、賃貸借契約の契約期間満了後、契約更新をしない旨の通知をした。
④ Xは、平成26年2月をもって契約は終了したと主張して、Yに対し、本件建物および本件土地の明渡しを求めて訴訟を提起した。
判決
判決は次のように述べてXの請求を棄却した原審判決(熊本地裁平成27年2月3日判決)を維持しました。
尚、カラオケボックスを「本件建物」、その建物の賃貸借契約を本件契約①、駐車場用土地を「本件建物」、その土地の賃貸借契約を本件契約②として簡略化し、判決文に修正を加えています。
「Yは、本件建物をカラオケボックス(カラオケ店舗)、本件土地を駐車場としてカラオケ店営業を営むために、本件建物について本件契約①を本件土地について本件契約②をそれぞれ締結したものであるところ、これに加えて、前記認定のAらの親族関係、本件各不動産の位置関係、利用状況、本件各契約の内容等を総合すれば、本件各契約はカラオケ店営業のために事実上一体として締結されたものであって、本件各不動産でカラオケ店営業をするためには、本件建物のほかに、本件土地を客用の駐車場として利用することが不可欠な状況にあることを認めることができる。
しかるところ、本件契約①について更新拒絶が認められずに法定更新され、その後の解約申入れも正当事由がないとして賃貸借契約関係が継続しているにもかかわらず、本件契約②が契約更新拒絶により終了しているとして、本件土地の明渡請求が認められることとなれば、結局、本件契約①の目的は達せられないこととなり、本件契約①の更新拒絶あるいは解約申入れについて、賃借人の保護と賃貸人との利益調整の観点から正当事由を要求した借地借家法の趣旨に明らかに反する結果となる。
一方、本件契約②について更新拒絶を認めなかったとしても、本件土地のみでの利用価値は低く、本件建物と一体として利用されることが社会経済上も望ましいし、当事者の合理的意思にも合致する上、その賃料が適正でない場合には賃料増額請求の手続を行うことも可能であるから、Xに特段の不利益はない。
以上からすれば、本件契約①が終了していないにもかかわらず、本件契約②について更新拒絶をすることは権利の濫用にあたるというべきであり、Aが行った本件通知はその限度で無効であって、上記のとおり本件契約②が本件契約①とともに存続すべきこと等を考えると、本件契約②は更新されて、期間の定めのない契約となったと解するのが相当である。
以上のとおり、Xの本件土地の明渡請求並びに本件契約②の終了を前提とする賃料相当損害金の支払請求は理由がない。」
最高裁平成9年7月1日判決
上記福岡高裁判決は最高裁平成9年7月1日判決を前提としていますので、あわせて同最高裁判決も紹介します。
「建物の所有を目的として数個の土地につき締結された賃貸借契約の借地権者が、ある土地の上には登記されている建物を所有していなくても、他の土地の上には登記されている建物を所有しており、これらの土地が社会通念上相互に密接に関連する一体として利用されている場合においては、借地権者名義で登記されている建物の存在しない土地の買主の借地権者に対する明渡請求の可否については、双方における土地の利用の必要性ないし土地を利用することができないことによる損失の程度、土地の利用状況に関する買主の認識の有無や買主が明渡請求をするに至った経緯、借地権者が借地権につき対抗要件を具備していなかったことがやむを得ないというべき事情の有無等を考慮すべきであり、これらの事情いかんによっては、これが権利の濫用に当たるとして許されないことがあるものというべきである。」
コメント
法律の適用するに際して、形式的に判断されるだけではなく、実体に鑑みて不適正な場合には権利濫用、信義則などの一般条項により修正されることがありますので、この点に留意する必要があります。
(弁護士 井上元)