家賃保証会社と明渡し自力救済の問題
家主にとって、家賃の滞納は死活問題です。連帯保証人をつけたとしても、十分な資力があるとは限りません。そのため、近時、家賃の保証会社を利用することも多く見受けられるとことです。
しかし、一方、家賃が滞納された場合、家賃保証会社などによる賃貸物件の鍵を付け替えるなど実力で賃借人の占有を排除する行為、法的手続によらないで賃貸物件内の動産の撤去処分等を行う行為等のいわゆる「追出し」行為が社会的に問題となりました。
そのため、平成21年2月16日、国土交通省住宅局住宅総合整備課長から財団法人日本賃貸住宅管理協会宛に「家賃債務保証業務の適正な実施の確保について」と題する通知もなされました。
(参照)国土交通省>家賃債務保証業務を行っている事業者の方へ
家賃保証会社による「追出し」行為に対し損害賠償が命じられた事案も多く現れていますのでご紹介します。
自力救済の禁止の原則
最高裁昭和40年12月7日判決は「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。」と判示し、自力救済は原則として認められないとしています。
「追出し」行為を違法として損害賠償を命じた裁判例
大阪地裁平成25年10月17日判決
賃貸人及び保証会社の従業員らによる強制退去が違法とされた事例です。判決は「暴言行為、本件鍵ロックの取付け、本件物件内への立入行為及び鍵の付替えが原告に対する加害行為に該当することは明らかである。」として慰謝料80万円と弁護士費用8万円の計88万円の請求を認めました。
東京地裁平成24年9月7日判決
家賃保証会社が賃貸物件の鍵を付け替えるなどして実力で賃借人の占有を排除して賃貸物件内の動産を撤去処分した行為を違法とするとともに会社代表者の個人責任を認めました。そして、財産的損害30万円、慰謝料20万円、弁護士費用5万円、計55万円の損害賠償を命じました。
大阪高裁平成23年6月10日判決
家財道具の損害額は70万円、慰謝料80万円及び弁護士費用15万円の合計165万円の損害賠償を命じました。
東京地裁平成24年3月9日判決
財産的損害100万円、慰謝料100万円及び弁護士費用20万円の計220万円の損害賠償を命じました。
その他
以上の裁判例の他にも、大阪地裁平成22年5月28日判決、福岡地裁平成21年12月3日判決、福岡地裁平成20年12月25日判決、東京地裁平成16年9月28日判決、東京地裁平成15年7月3日判決などがあります。
コメント
家主にとって家賃保証会社を利用することは確実に地代や家賃を回収することができるため、近時、その多く利用されている模様です。
しかし、家賃保証会社にとっても家賃の滞納は大きな損失となりますから、退去を求める行為が強行になりがちで、後日、違法な「追出し」行為と認定されることがあることも上記裁判例のとおりです。場合によっては、その争いに家主も巻き込まれかねません。
したがって、保証会社を利用するにしても、適正に業務を行ってくれる会社かどうか、十分に注意する必要があります。
(弁護士 井上元)