債務者所有不動産と保証人所有不動産の競売と配当
問題の所在
主債務者所有不動産と保証人所有不動産の両方に抵当権が設定されている場合、競売になった際の配当はどのようになるのでしょうか?
具体例として、主債務者の所有不動産が1000万円、保証人の所有不動産が1000万円、被担保債権が1000万円として説明します。主債務者(夫)と保証人(妻)が夫婦であり、夫のみが住宅ローンを組んで購入した場合と考えると、よくみかける状況ではないでしょうか。
民法392条1項では「債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。」と規定されています。
主債務者所有物件と保証人所有物件が共同担保になっている場合にも同規定が適用されるとする説(適用肯定説)によりますと、被担保債権1000万円は主債務者の所有不動産(1000万円)と保証人の所有不動産(1000万円)に按分で割り付けられますから、1000万円を債権者に交付して残った1000万円は、主債務者と保証人に各自500万円が交付されることになります。保証人は、その後、主債務者に対して500万円を請求しなければなりません。通常、このような場合の主債務者に資力はありませんから、保証人が回収することは困難です。
同規定が適用されないとする説(適用否定説)によりますと、被担保債権は、まず、主債務者の1000万円から控除されますから、残った1000万円は、全額、保証人に交付されることになります。
この問題について東京地判平成25年6月6日判決(適用肯定説)と大阪地判平成22年6月30日判決(適用否定説)がありますのでご紹介します。
東京地判平成25年6月6日判決(適用肯定説)
民法392条1項によれば、債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきとき(同時配当のとき)は、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分すべきものとされているところ、同項にいう数個の不動産については、明文上、その所有権の帰属に関して何ら定めがなく、これが同一人に帰属することまで求められているものとは解されないから、債務者所有不動産と物上保証人所有不動産とに共同抵当権が設定されている場合にも、同時配当が実施されるときは同項の適用があるというべきである。そうすると、前記前提となる事実のとおり、本件共同根抵当権はその設定と同時に共同担保である旨の登記がされており、その実行としての競売手続により、本件土地及び本件建物は一括売却され、根抵当権者である〇〇〇〇〇は各代価から同時に配当を受けることになるのであるから、本件共同根抵当権の被担保債権の負担については、民法398条の16、392条1項に基づき、本件土地及び本件建物の各価額に応じてこれをそれぞれに割り付けるべきである。
大阪地判平成22年6月30日判決(適用否定説)
債権者が債務者所有の甲不動産と物上保証人所有の乙不動産を共同抵当の目的とする場合において、甲、乙不動産について抵当権が実行されて、同時配当が実施されるときには、民法392条1項は適用されず、まず債務者所有不動産である甲不動産の代価から先に共同抵当権の被担保債権に配当し、不足が生じる場合に物上保証人所有不動産から配当をすべきものと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。共同抵当権者が乙不動産についてのみ抵当権を実行し、債権の満足を得たときは、物上保証人は、債務者に対する求償権を取得し、求償権を確保するために、民法500条により、共同抵当権者が甲不動産に有した抵当権の全額について代位するものと解するのが相当である。物上保証人は他の共同抵当物件である甲不動産から自己の求償権の満足を期待しているからである(昭和44年判決参照)。ところが、同時配当の場合に民法392条1項が適用されるとすると、不動産の価額に応じて被担保債権の負担が割り付けられてしまい、物上保証人の代位に対する上記期待は実現されない結果となるが、同時配当になるか異時配当になるかは、共同抵当権者が目的不動産の競売を一括して申し立てるか、時期を異にして分割して申し立てるか等の偶然に左右されるところ、このような偶然によって物上保証人の期待を侵害するのは相当ではないというべきである。また、甲、乙不動産にそれぞれ後順位抵当権者がいる場合に、乙不動産が先に競売されて弁済を受けたときは、乙不動産の後順位抵当権者は、物上保証人に移転した甲不動産に対する1番抵当権から甲不動産の後順位抵当権者に優先して配当を受けることができるのであるが(最高裁昭和60年5月23日第一小法廷判決・民集39巻4号940頁参照)、同時配当の場合に民法392条1項の適用を認めると、乙不動産の後順位抵当権者の上記の優先的な地位は保護されない結果となる。偶然によってこのような不均衡が生ずることは前述したところと同様に相当ではないし、このような不均衡が生ずることは、換価の順序という偶然の事情によって後順位抵当権者の配当に変動が生ずるという不公平な事態を回避しようとした法392条2項の趣旨にも反するというべきである。以上の諸点にかんがみると、甲、乙不動産について同時配当が実施されるときには、民法500条、501条の趣旨から、まず債務者所有不動産から配当を行うべきものと解すべきである(昭和61年判決参照)。
コメント
このように裁判例は分かれていますが、現時点(平成28年12月)において、大阪地方裁判所の執行部は適用否定説で運用されており、当事務所が担当した案件でも適用否定説で配当が行われました。
(弁護士 井上元)