不動産の売主である宅地建物取引業者の調査義務違反を認めた東京地判H26.3.26

 不動産売買において、売主には瑕疵担保責任が課されていますが、それ以外に、売主が宅地建物取引業者でもある場合には宅地建物取引業法35条に基づく調査義務を負っています。  売主の瑕疵担保責任などについては消滅時効にかかっているところ、宅地建物取引業法35条に基づく調査義務違反により損害賠償責任を認めた裁判例がありますのでご紹介します。

東京地裁平成26年3月26日判決

事案の概要

①原告は、平成14年、宅地建物取引業者でもある被告から給油所の土地・建物を2053万円で買受けた。

②原告は、購入後、給油所を賃貸し、賃借人は給油所を経営してきた。

③その後、同給油所が建築基準法等に違反していることが判明し、平成23年、原告は被告に対し、損害賠償等の請求を行った。

判決内容

 判決は次のように述べて、被告の宅地建物取引業者としての調査義務違反を認め、過失相殺3割を控除し、金766万円の損害賠償を命じました。

 説明義務違反の不法行為について

ア 宅地建物取引業者は、自ら不動産売買の当事者となる場合や売買契約の媒介を行う場合には、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)35条に基づく説明義務を負い、当該説明義務を果たす前提としての調査義務も負うものと解される。そして、宅建業法35条はその文言から、宅地建物取引業者が調査説明すべき事項を限定列挙したものとは解されないから、宅地建物取引業者がある事項が売買当事者にとって売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項であることを認識し、かつ当該事実の有無を知った場合には、信義則上、相手方当事者に対し、その事実の有無について調査説明義務を負う場合があると解される。

 被告は、宅地建物取引業者であるから、上記調査説明義務を負うことになる。

 この点、被告は、原告と被告との間に本件売買契約締結に要する知識・情報の格差はないこと及び同契約が現状有姿売買であることを理由として、調査説明義務を負わない旨主張する。しかしながら、取引の相手方が売買契約に要する知識等を有していることや現状有姿売買であることは、宅地建物取引業者である売主の調査説明義務を軽減することがあるとしても、同義務を免れさせることはないというべきであり、現状有姿売買であることも同義務を免れさせる原因となるとは解されない。したがって、被告の上記主張は採用できない。

イ 被告の調査説明義務違反の有無について

(ア)本件給油所の設置に関しては、本件開発許可申請、本件給油所の建築確認申請が行われており、これらは開発行為や本件給油所の建設工事が完了した段階で被告が完了届等を行い、完了検査が行われることが法令上予定されているものであり、完了検査が行われていなければ、建築基準法等に違反した状態にあることになる。そうすると、本件不動産に関し上記開発行為等について完了検査が行われているか否かは、売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項に該当するというべきであり、被告もその旨を認識することができたというべきである。これに、本件売買契約締結当時、本件開発許可申請や建築確認申請を行った被告において、これらに関する書類の所在が不明であったことを勘案すれば、被告は、完了検査の実施の有無について調査説明義務を負っていたというべきである。」

コメント

 本件では、原告は、①瑕疵を原因とする契約解除に基づく原状回復や②瑕疵担保による損害賠償も主張しましたが、これらは消滅時効にかかっているとして認められませんでした。

 しかし、判決は、売主であった被告は宅地建物取引業者であったことから宅地建物取引業法35条に基づく調査義務違反を認めたのです。

 売買契約や賃貸借契約の当事者が宅地建物取引業者である場合、上記調査義務があることにも留意してください。

(参考)

宅地建物取引業法35条1項本文

「宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第5号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。」

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

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