隣地建物・照明灯の越境が土地の隠れた瑕疵に当たらないとした東京地判H26.5.23
土地売買において、買主が売主に対し、土地の隠れた瑕疵があったと主張して損害賠償請求を行うことがあります。
一般には、土中など瓦礫が埋まっていた等の外観からは判別できない事情の場合が多いと思われますが、外観から判断できる場合でも争いとなることがあります。
東京地裁平成26年5月23日判決
事案の概要
1 Xらは、商業用ビルを建築するためにYから土地を購入した。
2 本件土地上には、その隣接地上にある建物及び同建物に設置された広告塔の照明灯がそれぞれ越境しているという瑕疵が存在した。
3 Xらは、金融機関からビルの建築資金の融資を受けることができずにビルの完成が遅延したと主張し、Yに対し、遅延した期間の賃料収入の逸失額の一部1380万円と、本件土地の市場価格の下落分1996万円に弁護士費用相当額を加えた2000万円との合計3380万円の損害賠償金の支払いを求めた。
判決の内容
判決は次のように判示してXらの請求を棄却した。
「Xら又はその代理人である○○は、本件売買契約締結に先立ち、本件土地の現況を見ていたのであるから、その時点で本件隣接地上建物と本件照明灯が存在することを知ったと考えられる。
もっとも、前記認定事実によれば、Xら及び○○は、本件売買契約締結後まで、少なくとも本件隣接地上建物が本件境界を越境していることまでは認識していなかったものと考えられるが、それは、Xら及び○○が、本件隣接地上建物や本件照明灯の存在を認識していなかったからではなく、本件境界が本件隣接地上建物の北側壁面よりも南側に位置することを認識していなかったからにほかならない。
しかも、Xら又は○○は、本件売買契約締結に先立ち、Yから本件測量図の交付を受けていたのであり、また、Yの承諾を得て本件土地に立ち入ってその当時存在した本件境界の両端の境界標の間を見通したり、その間にビニールひもを張ったりしておけば、本件隣接地上建物及びその北側壁面から更に北側に突出している本件照明灯が本件境界を越境していることを容易に知り得たものというべきである。
そうすると、仮に、本件各越境の存在が本件土地の瑕疵に当たると解しても、Xらは、本件売買契約締結時までに、その瑕疵の原因である本件隣接地上建物(その基礎部分を含む。)や本件照明灯の存在を現に知っていたのであり、又は少なくとも本件各越境の存在を知り得たのであるから、本件各越境の存在をもって本件土地の隠れた瑕疵に当たるということはできない。」
コメント
民法570条の「隠れた」とは、買主が取引上必要な普通の注意をしても発見することができないこと、すなわち、買主が瑕疵を知らず、かつ、知らないことについて過失がないことをいいます。そして、外部的に顕著な瑕疵についても、「隠れた瑕疵」に当たる余地があるとされています。
上記事件は、民法570条の「隠れた」に当たるか否かが争いとなったところ、隣接地上建物及び照明灯の越境について「隠れた」という要件には当たらないと判断されたものです。
(弁護士 井上元)