借地条件変更承諾料に関する大阪地裁平成30年1月12日決定
建物所有目的の借地の場合、建築する建物の種類、構造、規模又は用途について条件がつくのが通例であり、借地人がこの条件に違反すると、債務不履行となり契約を解除される可能性があります。
しかし、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により、借地条件変更することが相当であることもあります。
借地条件の変更につき当事者間で協議がととのわないとき、借地権者または借地権設定者からの申立てにより、裁判所は借地条件を変更することができます(借地借家法17条1項)。
そして、裁判所は、借地条件の変更の条件として、借地人に承諾料の支払を命じることができます(17条3項)。
大阪地裁平成30年1月12日決定が借地条件変更承諾料について判断していますので、ご紹介します。
大阪地裁平成30年1月12日決定
事案の概要
大阪市中心部の土地を借りて給油所を経営していた借地人が、建物を建て替えて自転車販売店舗を展開しようとして借地条件の変更を貸主に求めたものの、話し合いに応じてもらえなかったことから、地主の承諾に代わる許可を求めて借地非訟の申立てをした。
主文
1 申立人が、本決定確定の日から2か月以内に、相手方に対し、2500万円を支払うことを条件として、申立人と相手方との間の土地についての借地契約を堅固な建物の所有を目的、建物の種類を店舗、建物の構造を鉄骨造、建物の規模を高さ10メートルの3階建て、建物の用途を事業用に変更する。
2 前項の変更後の本件借地契約における地代は、前項の変更の効力が生じた日の属する月の翌月から月額78万4800円とする。
承諾料算定についての裁判所の判断(抜粋)
相手方は、鑑定委員会が採用した更地価格の6%ではなく10%とすべきであると主張しているようにも思われるので念のため検討する。確かに、文献によれば、借地条件変更の場合、当該借地の更地価格の10%相当額を原則としていること、例外的に固有の事情を考慮してその割合を適宜増減していること、裁判例を概観すると上限が15%、下限が7%あたりであろうこと、長年の裁判例の積み重ねにより借地非訟の実務慣行として不動産取引界にも根付いていることを指摘する。しかしながら、これは、東京地裁を中心とする関東地方の実情であって、持ち家志向が強く借地権取引が極端に少ない関西地方とりわけ大阪地裁管内ではかならずしも妥当しない。また、大阪地裁における借地非訟事件の申立ては件数も少なく、関西地方に借地取引の実務慣行が存在するとの文献も見当たらない。そうすると、当裁判所が判断の根拠とできるのは、関西とりわけ大阪府内における不動産取引に精通した鑑定委員により判断された鑑定意見書によるべきであると考える。
コメント
上記のとおり、東京地裁では借地条件変更承諾料を更地価格の10%とする実務慣行となっているとの文献もありますが、上記大阪地裁平成30年1月12日決定は、更地価格の6%が相当であるとする鑑定意見書を採用しました。
不動産については、地域により取引慣行が大きく異なることがあります。例えば、東京や京都では、賃貸借更新の際に更新料を支払うことが多いようですが、大阪では更新料の支払いは余り行われていないようです。
不動産取引は各地域によって異なる可能性があることを銘記する必要がありそうです。
借地借家法17条(借地条件の変更及び増改築の許可)
1項 建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
2項 増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
3項 裁判所は、前2項の裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
4項 裁判所は、前3項の裁判をするには、借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければならない。
5項 転借地権が設定されている場合において、必要があるときは、裁判所は、転借地権者の申立てにより、転借地権とともに借地権につき第1項から第3項までの裁判をすることができる。
6項 裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第1項から第3項まで又は前項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。
(弁護士 井上元)