境界確認書に署名・押印した際の和解金が暴利行為とされた事例
X土地所有者が、X土地を分筆したり、売却したりする際、隣地であるY土地との境界(実際は所有権界)を確定するため、隣地所有者に境界確認書へ署名・押印してもらうことがあります。
その境界に間違いなければ、隣地所有者としては署名・押印することが多いと思われます。境界を確定しておくことは隣地所有者にとっても有益だからです。
しかし、X土地所有者とY土地所有者との間で紛争が生じており、X土地所有者からY土地所有者に対し、境界確認書への署名・押印の見返りとして和解金が支払われることがあります。
この和解金の受領が暴利行為として320万円の内300万円の返還が命じられた事例がありますのでご紹介します。
大阪地裁平成9年8月27日判決
1 ~Yは、Y建物建築時の○○の前記発言に怒りを感じていたことやX建物の壁の表面の一部がY建物に倒れかかっていること、前記○○がY土地に侵入していることなどに対する不満を理由にX土地とY土地の境界確認書に押印することを拒否していたのであるから、Yが感情を害した右事情についてXとYとの間に紛争があったということができ、本件和解金の支払には、「筆界確認書」への署名押印に対する謝礼の趣旨にとどまらず、右事情について謝罪し、よって右紛争を解決する趣旨も含まれていたことは否定できない。
2 しかし、右紛争の性質、内容等に加えて、~で認定したとおり、X土地とY土地の境界の位置については争いがなかったこと、○○の前記発言については詫び状が作成され、X建物の壁の表面の一部がY建物に倒れかかっている等の点についてはXが業者に補修、改善するように手配していること、Y自身は詫び状をもらえれば境界確認書に押印してもよいと思っていたことを考え併せると、320万円という金額は、右謝礼の趣旨としてはもとより、Yが感情を害した右事情について謝罪し、よって右紛争を解決する趣旨を考慮しても著しく高額であって、その目的と対比すると権衡を失していると評価せざるを得ない。
また、~で認定した事実によれば、○○は、Yから境界確認書に押印してもらえなければ○○らに対し違約金640万円を支払わねばならないというXの立場を熟知しており、Xの右窮状に乗じて、その対応を窺いながら、本件和解金の引き上げを図った上、320万円の支払を受けたという事情を認めることができる。
3 右1、2の検討によれば、本件和解金のうち、20万円を越える部分については、その支払の合理的根拠を見出し難く、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である。
コメント
土地を所有していると境界の確認が必要であることが生じ、隣地所有者から境界確認書へ署名・押印してもらわなければならないことがあります。
境界線自体に争いがある事案なら和解金を授受して解決するということもあり得るかと思います。しかし、境界線自体に争いがない場合、和解金の授受には上記のとおり問題が生じることがあります。
境界確認書への署名・押印をめぐって紛争が生じている場合、上記の事案を参考にしてください。
(弁護士 井上元)