市街地再開発事業の流れ
市街地再開発事業がありますが、なじみがない方が多いと思います。
具体的にどのような手続きにより行われるのか、東京地判平成18・6・16判タ1264号125頁が分かりやすく整理していますので、ご紹介します、参考にしてください。
1 都市再開発法の目的等
都市再開発法(以下「再開発法」という。)は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もって公共の福祉に寄与することを目的とする(再開発法1条)。そして、市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、都市計画法及び再開発法で定めるところに従って行われる建築物及び建築敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業並びにこれに附帯する事業である市街地再開発事業(再開発法2条1号)について、所要の規定を設けている。
2 市街地再開発事業
市街地再開発事業は、権利変換方式により再開発法第3章の定める手続に従って行われる第一種市街地再開発事業と、用地買収方式により再開発法第4章の定める手続に従って行われる第二種市街地再開発事業とに分けられる(再開発法2条1号)。前者は、買収や収用によらず、一連の行政処分により、事業の施行地区内の土地、建物等に関する権利を施設建築物及びその敷地に関する権利に変換するものである(再開発法60条から111条まで)。後者は、一般の公共事業と同様に、いったん事業の施行地区内の土地、建物等を、施行者が買収又は収用し、買収又は収用された者が希望すれば、その対償に代えて、施設建築物及びその敷地に関する権利を与えるというものである(再開発法118条の2から118条の30まで)。
3 市街地再開発事業の施行者
市街地再開発事業の施行者には、個人施行者、市街地再開発組合(以下「組合」という。)、地方公共団体等が定められている(再開発法2条の2)。このうち組合は、第一種市街地再開発事業の施行区域内の土地について第一種市街地再開発事業を施行することができる(再開発法2条の2第2項)。
4 組合の設立
組合が施行する第一種市街地再開発事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、すべてその組合の組合員となる(再開発法20条1項)。また、このほか、住宅建設計画法3条に規定する公的資金による住宅を建設する者、不動産賃貸業者、商店街振興組合その他政令で定める者であって、組合が施行する第一種市街地再開発事業に参加することを希望し、定款で定められたものも、参加組合員として、組合の組合員となる(再開発法21条)。
組合を設立するためには、第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者が5人以上共同して、定款及び事業計画(又は事業基本方針)を定め、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれ3分の2以上(人数並びにその所有地及び借地の面積のいずれについても3分の2以上でなければならない。)から組合の設立についての同意を得た上で、都道府県知事の認可を受けなければならない(再開発法11条から14条まで)。
認可の申請があったときは、都道府県知事は、施行地区となるべき区域を管轄する市町村長に、当該事業計画を2週間公衆の縦覧に供させなければならず、当該事業に関係のある土地又はその土地に定着する物件について権利を有する者は、縦覧期間満了の日の翌日から起算して2週間を経過する日までに、都道府県知事に当該事業計画についての意見書を提出することができる(再開発法16条1項及び2項)。意見書が提出されたときは、都道府県知事は、その内容を審査し、その意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは事業計画に必要な修正を加えるべきことを命じ、その意見書に係る意見を採択すべきでないと認めるときはその旨を意見書を提出した者に通知しなければならない(再開発法16条3項)。
都道府県知事は、再開発法11条1項又は3項による認可をしたときは、組合の名称、事業施行期間、施行地区その他国土交通省令で定める事項を公告しなければならない(再開発法19条1項)。
5 権利変換手続
再開発法19条1項による組合設立認可の公告がされた後、権利変換手続が開始されることとなる。権利変換手続等の概要は、次のとおりである。
ア 土地調書及び物件調書の作成
再開発法19条1項の公告等所定の公告があった後、施行者は、土地調書及び物件調書を作成しなければならない(再開発法68条)。
イ 権利変換手続開始の登記
施行者は、再開発法19条1項の公告等所定の公告があったときは、遅滞なく、登記所に、施行地区内の宅地及び建築物並びにその宅地に存する既登記の借地権について、権利変換手続開始の登記を申請し、又は嘱託しなければならない(再開発法70条1項)。
ウ 権利変換を希望しない旨の申出
事業計画の決定若しくは認可の公告等所定の公告があったときは、施行地区内の宅地の所有者若しくは借地権者又は施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者は、その公告があった日から起算して30日以内に、施行者に対し、権利の変換を希望せず、自己の有する宅地等に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を他に移転すべき旨を申し出ることができる(再開発法71条1項)。
同項の期間経過後6月以内に再開発法83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始がされないときは、当該6月の期間経過後30日以内に、上記申出を撤回し、又は新たに申出をすることができる。その30日の期間経過後更に6月を経過しても再開発法83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始がされないときも、同様とする(再開発法71条5項)。
エ 権利変換計画の決定
施行者は、再開発法71条の規定による手続に必要な期間の経過後、遅滞なく、施行地区ごとに権利変換計画を定めなければならない(再開発法72条1項)。
オ 権利変換計画の作成の基準
(ア)地上権設定方式
再開発法が定める原則的な基準は、1個の施設建築物の敷地を1筆の土地として、その上に施設建築物の所有を目的とする地上権を設定するものである。すなわち、1個の施設建築物の敷地は1筆の土地となり、施行地区内に宅地、借地権又は権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築物若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものは、施設建築物の所有を目的とする地上権の共有持分及び当該施設建築物の共用部分の共有持分が与えられる。施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者には、その家主に対して与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられる。余剰となる施設建築物の一部等は、施行者に帰属することとなる。(再開発法75条から82条まで)
権利変換計画は、災害を防止し、衛生を向上し、その他居住条件を改善するとともに、施設建築物及び施設建築敷地の合理的利用を図るように定めなければならない。また、権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払って定めなければならない。(再開発法74条)
(イ)全員同意方式
施行者は、権利変換の内容につき、施行地区内の土地又は物件に関し権利を有する者等のすべての同意を得たときは、法定の方式によることなく、権利変換計画を定めることができる(再開発法110条1項)。
(ウ)地上権非設定方式
施行者は、地上権設定方式により権利変換計画を定めることが適当でないと認められる特別の事情があるとき(土地の所有者の大多数が地上権の設定された施設建築敷地の共有持分を欲しないときなど)は、施設建築敷地に地上権が設定されないものとして権利変換計画を定めることができる(再開発法111条)。
カ 権利変換計画の作成及び認可の手続
個人施行者以外の施行者は、権利変換計画を定めようとするときは、権利変換計画を2週間公衆の縦覧に供しなければならず、施行地区内の土地等に関し権利を有する者等は、縦覧期間内に、施行者に権利変換計画についての意見書を提出することができる。意見書の提出があったときは、施行者は、その意見を採択すべきであると認めるときは権利変換計画に必要な修正を加え、その意見を採択すべきでないと認めるときはその旨を意見書を提出した者に通知しなければならない。(再開発法83条1項、2項、3項)
また、施行者は、権利変換計画を定め、又は変更しようとするときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経なければならない(再開発法84条1項)。
こうして権利変換計画が決定された後、組合にあっては、都道府県知事の認可を受けなければならない(再開発法72条1項)。
キ 権利変換の処分
施行者は、権利変換計画の認可を受けたときは、遅滞なく、その旨を公告し、及び関係権利者に関係事項を書面で通知しなければならない。権利変換に関する処分は、この通知をすることによって行なわれる。(再開発法86条1項、2項)
ク 権利変換期日における権利の変換
権利変換の効果は、関係権利者に対する権利変換処分によって直ちに生ずるのではなく、権利変換計画に記載された一定の期日である権利変換期日において発生する。すなわち、施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。1個の施設建築物の敷地は、1筆の土地となり、土地所有者の共有の土地となる。権利変換を希望しない土地所有者の土地は、施行者がその所有者とみなされる。従前の土地に設定されていた担保権は、従前の土地に対応して与えられる施設建築物敷地の共有持分及び施設建築物の一部等の上に移行するので、権利変換期日には消滅しない。従前の土地を目的とするその他の権利は、すべて消滅する。
施行地区内の土地に権原に基づき所有されていた建築物は、権利変換期日において施行者に帰属する。従前の建築物を目的とする権利は、所有権及び担保権を除き、すべて消滅する。
(再開発法75条1項、76条4項、87条から89条まで)
6 補償金等の支払
施行地区内の宅地若しくは建築物又はこれらに関する権利を有する者で、再開発法の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないもの(権利変換を希望せず、金銭の給付を希望する旨を再開発法71条1項の規定により申し出た者などのことである。)に対し、施行者は、その補償として、権利変換期日までに、再開発法80条1項の規定により算定した相当の価額に同項に規定する30日の期間を経過した日から権利変換計画の認可の公告の日までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額に、当該権利変換計画の認可の公告の日から補償金を支払う日までの期間につき年6パーセントの割合により算定した利息相当額を付して、補償金を支払わなければならない。(再開発法91条1項)
なお、再開発法80条1項の規定により算定した相当の価額に不服があり、意見書を提出しても採択されなかった者は、収用委員会にその価額の裁決を申請することができる(再開発法85条1項)。
7 土地の明渡し
施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地にある物件を占有している者に対し、期限(請求をした日の翌日から起算して30日を経過した後の日でなければならない。)を定めて、土地の明渡しを求めることができる。明渡しの請求があった土地又は当該土地にある物件の占有者は、明渡しの期限までに、施行者にこれを引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、再開発法91条1項又は97条3項による補償金等の支払があるまでは、この限りでない。(再開発法96条1項、2項、3項)
8 土地の明渡しに伴う損失補償
施行者は、再開発法96条による土地の明渡し等によりその占有者等が通常受ける損失を補償しなければならない。この補償額については、施行者と土地占有者等とが協議しなければならず、施行者は、再開発法96条2項の明渡しの期限までにその補償額を支払わなければならない。
この場合において、その期限までに協議が成立していないときは、施行者は、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を定めなければならない。なお、協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に補償額の裁決を申請することができる。(再開発法97条)
(弁護士 井上元)