時効取得の場合は所得税にご注意!
土地に関する紛争では取得時効の主張がなされることも多く、取得時効を認めたうえで解決金の支払により解決されることがあります。
しかし、時効により取得したことになれば所得税が発生しますので、解決の際には注意してください。
この点、静岡地判平成8・7・18が所得税の課税処分をめぐって判断しており、参考となりますのでご紹介します。
静岡地判平成8・7・18行政事件裁判例集47巻7~8号632頁
事案の概要
⑴ Xは、平成元年11月27日、Aに対し、本件土地の所有権確認および昭和26年7月31日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を請求する訴訟を提起した。
⑵ 平成2年11月21日、XとAとの間で、①本件土地につきXが所有権を有することの確認、②Aは、Xに対し、本件土地につき昭和26年7月31日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を行うこと、③Xは、Aに対し、解決金270万円を支払うこと、等を内容とする裁判上の和解が成立した。
⑶ 課税庁は、Xに対し、時効取得により一時所得が発生したとして課税した。
⑷ Xは、時効取得による所得発生時期は、時効の遡及効により、占有を開始した昭和26年7月31日であるから、課税権は除斥期間の経過によって消滅していると主張し、課税庁による更正決定処分等の取消し訴訟を提起した。
一時所得の発生時期
判決は、取得時効の援用日に当該資産の所有権を取得するとしてXの請求を棄却しました。
「二 本件土地の時効取得による一時所得の発生時期について
この点、原告は、時効の遡及効(民法144条)を根拠に、右一時所得は取得時効の起算日である昭和26年7月31日に発生したとし、予備的に、訴訟外で時効を援用したとする昭和43年3月3日又は時効期間の経過した昭和46年7月31日に一時所得が発生した旨主張している。
しかしながら、民法は、所有権の取得時効を、10年又は20年の占有の継続と時効の援用とによって当該資産の所有権を取得するものとして、時効の効果を当事者の意思をも顧慮して生じさせることとしているのであって、これからすれば、実体法上、取得時効の効果は時効期間の経過とともに確定的に生ずるのではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずる、すなわち右援用時に当該資産の所有権を取得するものと解するのが相当である。
また、所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」とは、「収入すべき権利の確定した金額」と解すべきところ、取得時効の援用によって、占有者が当該資産につき時効利益を享受する意思が明らかになり、かつ時効取得に伴う一時所得に係る収入金額を具体的に計算することが可能になるのであるから、所得税法上も、時効援用時に時効取得に伴う一時所得に係る収入金額が発生するものと解すべきである。
なお、時効援用後に、訴訟等において取得時効にかかる事実が否定されたり、あるいは必要経費が発生したような場合には、納税者は、更正の請求により、減額更正を求めることができるのであるから(国税通則法23条2項1号)、時効援用後も訴訟等が係属していることをもって、時効援用時に一時所得の発生がないということはできない。」
一時所得に係る総収入金額と控除すべき金額
上記に続き、判決は、本件土地の評価は取得時効を援用した平成元年11月当時の評価によるべきであるとして5892万円と認定した課税庁による課税処分を適法としました。
コメント
取得時効は自己の所有物についても成立するのだから上記取り扱いは不合理であるとの見解もありますが、取得時効の場合には一時所得として課税されるというのが実務です。
したがって、取得時効を原因として土地を取得し、且つ、解決金を支払うといった和解を行う場合、解決金の他に所得税が課されることを忘れないでください。
(弁護士 井上元)
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